東電総合グラウンド 杉並区への想定売却価格はせいぜい70億円

東電が賠償金捻出のために、4万4千㎡の総合グランドを地元の杉並区に売却するという話だね。マスコミの多くは、「公示価格からすると190億円か?」などと無責任なことを言ってるよ。不動産を全く知らないんだね。
この際同じ前提で結論を言うと、「公示価格からすると、せいぜい70億円ぐらい」じゃないかと思うよ。猛烈に大雑把だけど。

簡単に説明するよ。公示価格のいう坪当たり約140万円(190億円÷4万4千㎡×3.3)は、公道に接面した面積40坪の土地を前提としているんだ。
ここは普通の住宅地域だから、これを売るには、道路を造成した上で敷地を40坪程度に細分化しなければならない。容積率制限の関係等から、マンション建築は全く採算が取れないんだ。

早い話、こんな広い住宅地を買うのは大手の宅地開発会社しかいない。そうした会社が買う値段が、この土地の時価になるわけだよ。となるとその会社の立場で買値を考えることが必要になるね。

この土地を40坪程度に細分化するには、敷地内に道路を造らなければならない。またこうした広い土地の開発には、かなり広い公園や調整池地等を確保する必要がある。これらは役所の開発指導要綱により、厳しい基準が設けられているんだ。
だから結論的には、道路や公園等の公共用地に4割近い土地を持って行かれる。つまり開発会社が売ることのできる土地は、6割強程度にしかならないわけだよ。

さらに開発会社には、膨大な造成費用や販管費・金利を要する。むろん適正利益を確保したり事業リスクも見積もる必要がある。となると最終的なこの土地の単価は、40坪前提の公示価格の4割を割り込むことになるだろうね。
ちなみに相続税評価には、広大地のこうした特徴を捉えた立派な評価規定があるんだ。それによると35%評価になってしまうね。

実はこの土地はさらに具合が悪いんだ。公的に指定された容積率が60%と極めて低いからだよ。つまり土地面積が60坪あって、やっと延べ面積36坪(60坪×60%)の建物が建つ計算になる。50坪なら建物は延べ30坪にしかならないね。

仮に公示価格の単価を前提にすると、60坪の面積なら土地代だけで8,400万円になってしまう。特に高級住宅地域でもないこの土地に、建物代を含めて優に1億円を超える金額を出す人はほとんどいないよね。
だからこれらの減額要因をも考え併せて、冒頭で言った「せいぜい70億円ぐらい」ということになったわけ。

少し補足するよ。まずネット等では「公示価格は実勢価格に比べて低め」なんて書かれているけど、昔はとにかく、今はあまりそういうことはないね。逆にこの土地の容積率を考えれば高すぎるぐらいだよ(最もこの責任は、公示価格じゃなくて相続税路線価にあるんだけど)。

それからマスコミの論調は、まだ土地神話の亡霊を引きずっているみたいだね。でもミニバブルといった一時の例外を除いて、地価は超長期的に下落基調なんだよ。
そもそも昔だったら、この土地なら杉並区なんかに話が行く前に、大手不動産会社がとっくに奪い合いをやってるはずだよ。今は白けきっているんだろうね。

以上で大体ご理解いただいたと思うけど、それにしてもマスコミを初め世の中は不動産がダメだね。ここに記した内容は、不動産のイロハなんだけどね。
そしてそのレベルであるにもかかわらず、何かあると不動産業界を悪者にするんだよ。まあこの業界に身を置く者としての、僻みもかなり入っているのかも知れないけどね。

いずれにしても、この土地の購入を検討しているという杉並区は、こうした土地の実態を十分に知った上での価格折衝をやってほしいね。
ちなみに私は、毎年大枚の住民税や固定資産税を払っている杉並区民だよ。区がこの土地を100億円以上の値で買おうものなら、高額納税者(?)として、必ず超厳しい監査請求をやるつもりだからね。しっかり頼むよ。