逆転評価物件は物納が断然有利である

相続税は物納できる/このところ物納件数が多い理由/国は物納をいやがるが、押しの一手で/物納手続の改正、ここがやっかいだ

 

物納

税の納付は、金銭によることが大原則です。しかし相続税に限っては、一定の要件の下に物で税の納付を行うという物納制度が設けられています。

物納に関して最も大切な点は、「収納価格(納税額)は相続税評価額」という点です。この評価額は一般に、時価よりも低めに設定されています。したがって低い評価額のものを物納するのは得策ではありません。

まして昭和50年代までの土地の評価は、時価の3~4割程度とかなり低水準でした。ですからこの頃は物納はほとんど行われませんでした。ところが平成4年以降は、評価水準が公示価格の8割とほぼ時価並になりました。さらに後述すつとおり評価規定が不出来なため、評価額が時価を超過する「逆転評価」が少なからず発生します。

であれば、こうした時価を超過する「逆転評価」物件は、物納した方が有利となります。つまり国が時価以上の値で買ってくれるのです。こうして平成4年以降に大量の物納が発生し、その後今に至るも高水準が続いているわけです。

ただしどんな土地でも収納してくれるわけではありません。つまり相続税法42条は、「管理又は処分が不適当である場合」に物納を認めないと定めています。そしてこの「管理又は処分が不適当」関しては、資料3-1のとおり相続税法基本通達42-2(物納不可財産)等が具体的に規定しています。

資料3-1: 管理処分不適当財産

法2条2項ただし書に規定する「管理又は処分するのに不適当であると認める」財産とは、次に揚げるような財産をいうものとする。
1. 共通事項(略)
2. 有価証券(略)
3. 不動産

イ. 買戻しの特約の登記、所有権移転の仮登記等のある不動産
ロ. 売却できる見込みのない不動産 たとえば、次に揚げるような不動産をいう。
(1) 崖地等で、単独には通常の用途に供することができない土地。ただし、当該土地が通常の用途に供することができる宅地等に通常付随する程度のもので、当該宅地等とともに物納する場合を除く。
(2) 借地権又は借地権の及ぶ範囲が明らかでない貸地
(3) 無道路地
(4) 私道で多数の者が利用している土地。ただし、通常の用途に供することができる宅地等と一体として利用されているもので、当該宅地等とともに物納できる場合を除く。
(5) 借地権の伴わない建物(建物のみの物納の場合で、地主から借地権譲渡に対する承諾の得られないものなどをいう)
ハ. 稼働工場の一部を構成する不動産等のように、他の財産と一体として効用を有する不動産
ニ. 現状を維持するための土留、護岸等の築造又は修理を要する土地
ホ. 境界線が明確でない土地で、隣地地主から境界線に異議のない旨の了解が得られない土地。ただし、既存の登記関係書類等により境界線が明確であり、かつ、隣接地主との間に争いがない事実が確認できるものを除く。
チ. 敷金、保証金等の債務がある貸地又は貸家。ただし、当該債務を国に引き継がない旨の確認が得られるものを除く。
ル. 今後数年以内の使用に耐えないと認められる建物
カ. 借地、借家契約の円滑な継続が困難な不動産 (注)たとえば、次に揚げるような不動産をいう。
(1) 社会通念に照らし、契約内容が貸主に著しく不利な貸地又は貸家
(2) 物納後においても、賃貸料の滞納の発生が見込まれるもの
(3) 相応の価額で国が借り受けられる見込みのない土地上の建物
(4) 国の定めによる貸付基準による賃貸料での貸付が見込まれないもの
ところで国税側は、収納した土地等は後日換金することにより税収に充てます。いわば国は転売業者なのです。しかし国は手間のかかる物納を嫌います。さらに土地条件が劣る等により転売が面倒と思えば、先の「物納不可財産」に該当しないものまでも収納を拒否しようとします。そして不動産が不得手な多くの税理士さんは、この要請を受け入れてしまいます。

しかしこのような場合には、先の基本通達を根拠としてこれを拒否することです。先方はこれで引き下がるはずです。(参照)

なお平成18年から、物納申請時に測量図等の必要書類を提出しなければならない等、物納手続が厳しくなる方向に改正されています。いずれにしても相続財産に「逆転評価」物件が含まれているのであれば、しっかり物納制度を研究すべきものと思います。