積年の問題点の解決

資産家から相続税の申告の依頼を受けました。
しかし遺産の全体を見ると、毎年の不動産収入の割に金融資産がかなり(1億円以上)少ないように思われます。このままの申告では税務調査を誘発することもあり、疑問は解消しておかなければなりません。そこでざっくばらんにこの点を聞きました。

しかし遺族は、「言われてみればそうネ。でもこれしかありませんよ」とのこと。となれば過去に大きな支出があったはずです。その点を強く問いただしました。すると「そういえば・・・」と、次のような話が出てきました(なお他にも約7,000万円の使途が判明)。

「長男であった亡夫は、その親からほとんどの財産を相続していたのですが、10数年前に事業の失敗した亡夫の弟から頼み込まれて、約5,000万円を渡したということを耳にしている」というのです。そして「夫はこれを「身内の不始末」と考えたのか、私には詳しい話をしてくれなかった」とのことです。

成る程、それで金融資産の少ない点は分かりました。しかしそうなると、その5,000万円はその時点で弟さんに贈与したのか、それとも貸しただけなのかが問題となります。むろん貸したのであれば、弟への貸し金として相続財産が5,000万円増えてしまいます。一方贈与であれば特に問題になりません(贈与税は既に時効です)。

いろいろ聞いてみると、実質は贈与(つまり返してもらうつもりなし)なのですが、(甘え排除の意味から)形式的には貸したようなニュアンスでいたようなのです。そして「それ以後は、弟はこうした弱味があるため、亡夫とは疎遠になってしまった」。「亡夫の葬儀を含め、我々(未亡人とその子)には一層よそよそしい対応をとっている」。さらには「お金を返してもらう気はまったくありませんが、実は今後どうおつきあいをしていいかで困っている」というのです。

これは容易ならざる話です。税務調査となれば、これは「貸し金」(つまり遺産)であると主張するでしょう。確たる贈与の形跡がないからです。しかし「貸し金」である根拠もありません。この場合のポイントは何といっても当事者の認識。つまり弟が当時どう思っていたかです(亡兄はもういません)。となると税務署が弟を訪ね、先方に有利な回答を引き出す可能性があります。

こうなれば事前に弟と話をつけておかなければなりません。しかし遺族は引っ込み思案。となると私が行くより他ありません。その際には、何としても相手のプライドを傷つけないようにしつつ、本音の話に持ち込む必要があります。税務調査対策もありますが、良好な親戚関係の回復も大きな狙いだからです。

結局かなり冷や冷やものでしたが、大過なく任務を果たすことができました。伝えた内容は、「亡兄は、贈与のつもりでお金を渡している。したがって遺族も返済を求める気は毛頭ない。仮に税務署から問い合わせがあったならば、”当初から贈与を受けた”と回答してほしい。今後も円満な親戚関係を続けたい」。そしてこれらにつき、先方の快諾を得ることができました。

なお税務申告に際しては、金融資産が過少と思われるこれら二点についての詳細な補足説明書を添付しました。税務調査防止の特効薬は、税務署員を納得させることが一番だからです。