有効利用敷地も、広大地の減額ができる

国税当局が発表しているいわゆる「16年情報」は、アパートや賃貸マンションの敷地といった有効利用の用に供されている土地は、広大地の規定の適用除外であると記載されています。しかしそれは明らかに誤りです。以下にその理由等を簡単に説明します。
なおこの点に関しての詳細は、ホームページの中の「広大地の評価はお任せ下さい」の記載内容、さらには共著「広大地の税務評価」((株)プログレス)をご参照下さい。

(1)更地評価が前提
そもそも土地の相続税評価は、(貸宅地や貸家建付地といった権利関係を除き)「更地としての評価」を行うはずのものです。つまり有効利用であれ何であれ、土地の利用状況は評価には無関係なのです。それは路線価のベースとなっている公示価格や、同じ税務評価である土地の固定資産税も同様です。

仮に「土地の相続税評価はその利用状況をも考慮する」というのであれば、有効利用だけであってはならないはずです。実は世の中には、ない方がいいといった建物が山ほどあります。新たな買主が購入後、直ちにその建物を取り壊すといったケースです。
そうであれば、じゃまな建物がある分、土地の評価額からその取り壊し費用をマイナスしなければならないこととなります(もっといえば、その建物の評価額もゼロにすべきでしょう)。ところが現実にはそのような複雑な評価ができないからこそ、簡便性の原則により「更地としての評価」を採用していたはずです。

したがって、評価額を上げる方向に関してのみ土地の利用状況を評価に算入するというのは、整合性の観点から不合理というより他ありません。評価理論の観点から、こうしたご都合主義的な評価は許されないのです。

(2)大元の評価規定に違背する
次に大元の評価規定である、財産評価基本通達(評価通達)がどう定めているかを考えてみます。この規定では広大地から除外する面大地を、大規模工場用地とマンション適地等のふたつに限定しています。つまり評価通達では、その土地が有効利用に供されているかどうかに言及していません。
その一方「16年情報」とは、大元の評価通達の規定をどう解釈するかに関して解説した書面です。要するに、「16年情報」は、評価通達の下位に位置するものです。

したがって、上位規定ともいうべき評価通達の規定が除外対象をふたつに限定している以上、下位規定ともいうべき「16年情報」によって、「除外対象を、一般の有効利用敷地にまで拡大する」かのような解釈を行うことは困難です。
もっとも「そう解釈しなければこの規定の正当性が大きく損なわれてしまう」という場合であれば話は別といえるかもしれません。しかし上記(1)や下記(3)で示すとおり、この点に関してはそうしたケースには該当しません。

(3)土地価格をアップさせるほど収益性が高いのか
実は、一般のアパートや賃貸マンションの収益性はさしたるものではありません。こうした賃貸建物の建築は、「単に遊ばしていても仕方ないから」といったケースがかなり多いと思われます。また「節税対策になるから」あるいは「銀行さんに強く勧められたから」といった場合もかなりあるでしょう。

それは、その賃貸の土地建物を売却した場合のことを考えれば明らかとなります。つまり「更地価格(路線価を前提とした時価)+建物価格」(さらにこれらに貸家建付地や貸屋の減額を実施。以下これを単に「土地建物価格」という)で売れるかどうかです。そして現実には、「土地建物価格」で売れるケースは極めて限られているのが現状です。

こうした収益物件についての取引市場は、いわゆる「利回り」(満室前提の年間家賃収入÷売買価格)をベースとして形成されています。そして現状の中古収益物件の利回りは、7~10%(空室や修繕の少ない物件ほど利回りは低い)が要求されています。
ところが先の「単に遊ばしていても仕方ないから」といった収益物件の利回りはせいぜい5~6%です。おまけに最寄り駅から遠く、空室発生の可能性が高めのものが大半となっています。したがってこれらの市場価格は先の「土地建物価格」から3~4割は下がりかねません。
となればこれらの賃貸物件の相続税評価は、広大地の減額以上に引き下げてもらいたいくらいなのです。

とはいえ中には収益性がかなり高く、「土地建物価格」を前提とした利回りが軽く7~10%を達成している、という賃貸物件もありましょう。であればこの土地には当然に広大地の減額は不要となります。
ただしそのような土地であれば、おそらくマンション適地に該当しているはずです。その結果、本来の評価通達の規定で、こうした面も手当てされていると考えるべきこととなります。

なお、「有効利用に供することで収益を得ているのだから評価減は不要」という考え方は、成立する余地はありません。繰り返しますが、相続税における土地の評価額は、(権利関係を除き)その土地の利用状況に影響を受けないからです。「家賃を受けている土地の方が有利」という考え方も、家賃収受による有利性は、所得課税の領域と理解すべきです。

(4)結 論
以上のとおり、「16年情報」よる有効利用敷地は広大地の規定の適用除外とする見解は、評価理論、評価規定および市場価格の三つの観点から、それが誤りであることが明白となります。
したがって有効利用敷地である広大地であっても、評価通達が定めているとおり「その土地がマンション適地に該当しているか否か」を考えることのみにより、その減額規定の適用の可否を判断すべきなのです。

とはいえ現実には有効利用敷地であることを理由に、当局が広大地の規定の適用を否定するケースがあるやの話です。何よりこの否定を過度に恐れることにより、この規定の適用を「自粛」してしまう場合が数多く見られるようです。

このような場合を疑問に思われる方は、当事務所にご相談いただきたく思います。上記の見解をベースに的確に対処したいと考えるしだいです。
ちなみに当事務所では、大きめの賃貸マンション敷地に関して、念のため更正の請求により広大地を適用し、無事に税の還付を受けたという実績があります。その際に税務署から「念のため」という形で説明を求められましたが、当然ながら、先方は上記の三点(とりわけ(3))の説明をすんなり受け入れています。