大阪の難波にある個室ビデオ店の店内での放火により、16人が焼死した事件が発生している。この放火殺人の罪に問われた男の控訴審判決がこの26日になされ、一審の死刑判決が維持された。
しかしまだ記憶に残っているこの事件も、「冤罪File」誌等からすれば冤罪の可能性が極めて高い。
当時警察は、出火直後に下着姿でうろついてこの男(以下被告という)を任意同行。被告はその2時間後には放火を自白している。理由は、人生に嫌気がさし自殺を図ったとされている。
またその後、被告の部屋の18号室から出火しているのを見たとする店員らの証言も得ている。検察はこれらを根拠に、(裁判員裁判が始まる直前に)彼を起訴した。

一審での最大の争点は、「火元はどこか」である。実は常識的には9号室であった。このような場合は、最も激しく燃えた場所が火元とされる。それが9号室だったのだ。事実9号室はとことん燃えていたという。
その証拠に、消防の判定書には「被告のいた18号室には、火元の決め手となるものは何もなかった」と明記されている。さらには「外部から炎がなだれ込んだ形跡さえある」とも書かれている。

ただし被告は、こうした調査結果が出る前に犯行を認めており、警察も消防も火元の特定にあまり関心を示さなかったようだ。

被告が警察の追及に、すぐ「自白」したのにも理由があった。実は彼は、自分が吸った煙草の不始末が原因と誤解していた。だから「多数の人を死なせた以上、死刑になっても仕方ない」と思っていたのだ。
しかし火災は煙草によるものではないことは、警察・消防も認めている。そしてそれに気付いた被告は、起訴前に「放火はしていない」と否認に転じている。

そもそも動機も不可解だ。人生に嫌気がさして自殺を図ったとされているがにわかには信じがたい。仮にそうであっても、何も個室ビデオに放火することはあるまい。現に彼は自殺に「失敗」している。

店員の目撃証言も当てにならない。この事件では店の防火体制のかなりの不備が指摘されている。しかし何故か警察等からこの点の追及は受けていない。目撃証言は、追及しないことの交換条件の疑いが濃厚なのだ。事実「店員が見たという場所からは、18号室は見えないはず」と弁護側は言う。

では一体誰が何の目的でやったのか。弁護団はこの点について想定した内容を説明もする。しかし検察側はなんの調査もしないままこれを荒唐無稽と排斥する。

もっとも弁護側は、被告が無罪であることを立証する必要はないし、ましてや真犯人が誰であるかなど云々する必要もない。単に、「被告を有罪と断定するには無理があること」のみを主張すればよいのである。

そして上記のようにそれは十分達成している。すなわち被告の部屋が火元とは考えられない。実質的に動機もない。目撃証言も当てになりそうにない。おまけに「自白」には特有の秘密の暴露もなかった。その他にも疑問が多いのだ。

一方、被告は元来気が弱く、何か人から強く言われるとすぐに「すいません、すいません」と言ってしまう癖があるという。その上「自分の煙草の不始末かも知れない」と思っている。だから、周りが「この男が怪しい」と思うのも無理はない。
ついでにいえば、彼は無職で、生活保護を受けつつサラ金の借入も少なくない。
人生に嫌気をさしていたのは事実であろう。

そんな男がすぐに「自白」したのだ。警察が一件落着と思うのは当然であろう。
しかしいろいろ調べていくと、「火元」を中心に疑問が山ほど出てきたわけだ。
しかし警察・検察はいったん決めた方針は、決して変えようとしない。検察の言いなりの裁判所は、着実に有罪判決を出してくれるからだ。本来は、このような「犯罪の証明がなされていない」事案は無罪としなければならないにもかかわらずである。

この事件は、そうした「冤罪大国日本」の典型のように思われてならない。