路線価評価のしくみと問題点

 土地の値段は、ほぼ道路の善し悪しで決まります。その証拠を皆さんが前章で行った写真による判断で示します。実は皆さんによる土地の良否の判断基準は、道路の良否だったはずです。ここからも分かるとおり、いい土地とはいい道路に接面した土地なのです。

 路線価評価はこの点に着目しました。つまり各道路に接面した「標準的な土地」のm²単価(つまり路線価)をその道路に設定します。この道路の良否は、道路幅員等によりそれぞれ違いがあります。その違いを反映する路線価を各道路(路線)に付設していきます。これらの路線価を地図に記入したものが路線価図です。

 ところで前章でお話ししたとおり、個々の土地の評価を行うには次の算式で示されるようにふたつの手順を要しました。

  個別の土地の評価額=地域の地価水準±個別的要因

 つまり路線価は、先に算式で示した評価のふたつの手順のうち、「地域の地価水準」を示しています。つまりその道路沿いの土地がここでいう「その地域」に当たるわけです

 もう一つの「±個別的要因」は、次節で詳しく述べる「奥行価格補正率」、「間口狭小補正率」、「不整形地補正率」といった各種の補正率でこれを行います。

 以上のとおり、これらは土地評価の理にかなっており、路線価評価の基本的しくみはよくできているといってよいと思います。

 しかし実際には土地の評価規定はかなりお寒い状況にあります。その原因は、算式の「±個別的要因」に当たる各種の補正率にあります。設定された路線価はまずまずなのですが、次に述べるとおりこの補正率が極めて具合が悪いのです。

「寒さ」の原因

 相続税は納税者側が、相続開始後10ヶ月以内に自身で土地等のすべての相続財産を評価した上で申告しなりません。しかし納税者や税理士さらには税務職員は、不動産の評価に関しては素人です。したがって土地の評価規定は、評価の素人が10ヶ月以内に評価ができるような簡便なものでなければなりません。

 ただし相続税が課される地主層が所有する不動産は千差万別で、個別性の強いさまざまな状況の不動産が存在します。しかし簡便性優先の評価規定では、到底このような個別性に対応していられません。

 したがって評価の正確性など2の次3の次。とにかく「多種多様な大量の土地を、素人が短期間での評価を可能とする」を第一義に作成するより他ありません。とはいえこの簡便という名の杜撰さ批判するつもりはありません。実務上こうするしかないからです。 しかしこれが大量簡便評価に起因するやむを得ないもの、といったものに止まっていればよかったのですが、実際にはそんなものでは済みません。

 相続税法では、相続財産の評価は時価(客観的な交換価値)で評価すべく定められています。しかし昭和39年に再出発した現行制度発足当初から、評価の基礎となる路線価の水準は長年にわたり、本来の時価の3分の1以下程度と極めて低い水準に設定されていました。

 これは土地の相続税評価が、大量簡便評価といった大雑把なものに過ぎないということを当時の評価担当者が認識していたからであったと思われます。つまり低評価水準にしておけば、少々評価がぶれても、評価額が時価を超過するという「違法評価」のそしりを受けないで済むからです。

 同時に当局は、その分税率を高くすることにより税収はしっかり確保しています。近年までの最高税率70%という高さ(やっと平成15年から50%)は、こうした事情抜きには考えられません。

 こうして、「違法評価」発生の心配から解放された当局は、評価の的確性のための努力を放棄したようです。同時に「本来は時価まで評価を高くしていいにもかかわらず、あえて評価水準を低く抑えてやっている」という傲慢な姿勢さえ垣間見えます。そしてこれが路線価評価の最大の欠点と思われる「怠慢評価」に直結します。

 何より当局は、不動産に関する真摯な勉強を一切していません。したがって評価規定には、驚くべき「勉強不足評価」がみられます。

 以上のとおり路線価評価の「寒さ」の原因は、「大雑把評価」「怠慢評価」「勉強不足評価」の3つ、及びその複合汚染によるものなのです。これらの実態は、次節の各種の補正率の項でイヤというほど思い知らされます。

杜撰評価の表面化

 さてこの路線価の水準は、地価高騰の抑制策といった側面をも含め、昭和62~63年頃から徐々に引き上げられていきました。そして平成4年にはついに公示価格の8割というほぼ時価並みの水準にまで達しました(図表5-1)。そして今日に至るも「公示8割」は維持されています。

図表5-1: 一物四価の時系列グラフ

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 であれば本来、従来の安易な評価は許されないはずです。しかしこの頃の評価担当者は、評価の杜撰ぶりを認識していなかったのでしょう。この「時価並み化」に当たり、評価規定はほとんど改善されませんでした。

 となれば時価を上回る「逆転評価」が大量発生します。おまけに税率の引き下げも一部しか行われません。したがって、大増税の嵐が吹き荒れました(とりわけ平成3~5年。この酷税ぶりに気づきあわてて平成6年に大減税)。

 さて「逆転評価」の大量発生は、物納の噴出によく表れています(資料3-1)。第3章で述べたとおり、この収納価格は相続税評価額です。したがって「逆転評価」ともなれば、時価よりも高い相続税評価で納税した方が有利です。だから物納が爆発的に増加したわけです。

 結局(「怠慢評価」等は論外としても)、大量簡便評価が余儀なくされている路線価評価においては、「公示8割」という評価水準はかなり無理があります。しかし国税庁の評価担当者は、こうした現状が分かっていません。

 そしてこれら全般をコテンパンに批判したのが、筆者の「怒りの路線価物語」(平成4年、その改訂版が平成9年。いずれもダイヤモンド社。絶版)です。当時この種の本が全くなかったこともあって、当局を含めかなり注目されたものです。

 こうした各種の批判を受けて、遅まきながら当局も勉強を始めたとみえて、その後徐々に評価規定は改善されつつあります。しかし「お寒い」実態はあまり変わっていません。逆にこうした勉強の成果が評価規定に導入されると、一般の税理士がこれに付いてこられなくなるという、新たな問題も発生しています。

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