突然出てきた「中古住宅の診断義務化」政策は、全くの見当違い

(2015年04月29日)

日経新聞は突然、「中古住宅の診断義務化」という記事を一面にでかでかと載せたよ(4月27日)。政府・与党が、売れ残る中古住宅の市場活性化に乗り出したんだよ。

記事によると、まず売主に専門家による住宅診断を義務付けさせ、その結果を仲介事業者に買主へ説明させるんだって。
これで買主の不安をなくして、資産価値の高い中古住宅を流通させようってわけ。ついでに増えちゃった空き家を減らす効果をも狙ってるとのことだよ。 

この問題の背景には、取引市場では築20年を超した建物の資産価値をほぼゼロとみる点があるね。事実、古い建物は取り壊して更地で売った方が、早くいい値で売れる傾向が強いんだ。

でも欧米の人は古い建物でも価値はそう落ちないと考える。だから50年や80年経ってる建物も、住宅診断でOKさえ出ればいい値で立派に流通してるんだ。   だから中古住宅の取引の割合は新築住宅よりも断然多い。これは新築建物が圧倒的に多い日本とは全く逆なんだよ。

これは欧米にならった一見もっともらしい政策なんだけど、実は全くの見当違いだね。
つまり中古住宅が売れない理由は、家屋の性能への不安じゃないんだ。それは「中古は嫌。新築がいい」という日本人の国民性にあると思う。だからいくら住宅診断でOKが出ても、25年も経ってたらそれだけでダメなんだよ。

日本人はとことん「潔癖症」だね。だから中古品が流通する商品なんかほとんどないじゃん。そもそも質屋業界は壊滅状況だし、中古車だってまだ十分走れる車が雀の涙の値段。曲がったキュウリは売れないし、新品に少しでも傷があれば「訳あり商品」として値はどっと落ちちゃう。

中古住宅だって理屈は同じだよ。今では昔みたいな安普請の家なんかないから、25年経ってても物理的・機能的にはほとんど問題ないよ。買手だってその辺は分かってる。それでも新築の方がいいんだね。

 ついでにいえば10年近く前に「200年住宅」って変な制度ができたね。これも「しっかりした家なら古くなっても流通するはず」って発想だよ。
 でも「築15年の200年住宅と新築住宅。どっちがいい」って言われれば、皆が新築住宅を選ぶんじゃないの。この制度は建築業界を喜ばしただけだと思うね。

 欧米人にはそんな「潔癖症」はないよ。おまけに古い物を大切にするから、中古住宅はウェルカムなんだ。
 これはどっちが正しいって問題じゃないと思う。要は文化の違いだね。その意味から、日本の街その他は欧米に比べてずっときれいで清潔になってるよ。

 私はどうにも「中古住宅の売主に住宅診断を義務づける」って、役所の強制が嫌なんだよ。
第一、義務化になんてしたら、ますます「面倒だから、取り壊して更地で売ろう」って話になっちゃうんじゃないの。

 ところで「中古住宅は日陰者で、新築ばかりが世にあふれてる」という現状は、政府が作り出した側面が強いよ。理由は景気対策だね。
何せ住宅建設は景気の牽引車だから、住宅ローン控除制度を筆頭に鉦や太鼓で国民に家を建てさせたんだ。「マイホーム取得こそ男の甲斐性」てな調子でね。

だから昔から「建てちゃ壊し」でやってきたんだよ。にもかかわらず突然ここで中古住宅の寿命を延ばしちゃっていいのかい。住宅の新築がかなり減って景気がどっと悪化するよ。人口減の今日、双方を増やすなんてできっこないんだからね。

空き家の急増問題にしたって、中古住宅の流通とはほとんど関係ないよ。この問題の本質は、国の「住宅新築件数の維持拡大政策」一点張りの対応にあると思う。建てさせた後の問題なんか考えちゃいなかったもんね。

 政治家や役所がいう以上、これには政治献金や予算・天下りの拡大策が絡んでいるんだろうけど、これは中身がお粗末だね。
いずれにしても、たいして分かっちゃいないのに、権限を笠に取引市場に口なんか出したらダメなんだよ。
以 上

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