相続・不動産の森田税務会計事務所 森田義男法務省は、戸籍のない人が少なくとも全国に279人いると発表した。とはいえこの数値は氷山の一角。実際はこの数十倍はいるのではないかと推定されている。

無戸籍者の発生理由は、そのほとんどが民法の嫡出子推定の規定、「離婚後300日以内に生まれた子は元夫の子と推定する」にある。つまりDVを含め元夫の子になるのを嫌がる母親が、出生届けを出さないことにより無戸籍が生じるわけだ。

この国では戸籍がないととんでもないことになる。まずは戸籍が前提の住民票が作成されない。だから学齢簿等に記載されないため原則として小学校への入学ができない。
その後の進学・就職・結婚・各種社会保険等の社会の基本的な仕組みは,すべて戸籍や住民票の存在を前提としている。これがみんなダメになってしまうのだ。

「私は透明人間のよう」。無戸籍者のこの発言にみられるとおり、彼らは存在自体が否定されている。まさに壮烈な人権侵害なのである。

今日では、離婚後300日以内に生まれた子供でも、実際には前夫の子ではない場合も少なくない。「真の父が誰であるか」を科学的に調べるのも容易だ。
しかし戸籍を所管する法務省は、この問題を何十年間も放置してきた。その法務省が人権問題をも所管しているのは、ブラックユーモアというべきなのか。

「この嫡出推定規定は変えるべき。とりあえずは「父親不詳」のままで戸籍を作ればいいのではないか」、といった常識的な考え通用しない。
その背景には、「現行の戸籍制度は重要。まして日本の家族制度の崩壊につながる嫡出推定規定の変更は許されない」とする、多くの保守派の政治家や学者の存在がある。

だから無戸籍者が戸籍を回復しようとすると、現実には大変なことになる。役所は親子関係を確定させない限り、出生届(つまり戸籍)を受け付けない。この確定には、極めて面倒な調停さらには裁判が必要となるからだ。

問題の根っこには、「戸籍により国民をがんじがらめに管理しよう」という法務省らの根深い意図がある。戸籍は彼らにとって「神聖にして侵すべからず」の存在なのだ。

実は、戸籍は日本にしか存在しない特異な制度にすぎない(占領下で日本が作らせた韓国と台湾を除く)。
欧米のいわゆる「身分登記制度」は、結婚なら婚姻簿、出生なら出生簿に各届けが順次ファイルされているだけ。日本のように親族・身分を一覧で示すようなものではない。

むろん納税や選挙(さらには徴兵)等のために国民を把握する手段は講じられているであろうが、日本の戸籍制度とは本質的に異なる(米国では戸籍も住民票もないという。中国の「農村戸籍」も実態は戸籍でも何でもない)。
つまり欧米の制度は、国民が結婚等の事実を他に証明する必要がある場合に、国がその証明書を提供するサービスのための存在にすぎないのである。

一方わが国では、国民を管理するための手段として軍部主導で戸籍制度を設けた。むろん徴兵逃れの防止が目的である。そして「戸主」や「家」をベースとする戸籍により、一族を管理させる仕組みを作った。これで相互監視も可能となる。

戦後なってからは、とりあえず戸主の制度は廃止したものの、「戸籍筆頭者」や住民票の「世帯主」等の規定を含め、管理の仕組みは相応に維持されている。むしろ住民票を戸籍に連動させる等、管理体制は一層強まっているともいえよう。

現行の戸籍制度の矛盾は山ほどあるが、典型的な一点を指摘しておく。
日本国憲法の24条は、「婚姻は両性の合意のみにより成立」と定めている。つまり両性が合意すれば婚姻届けなどなくとも婚姻は成立するはずだ。

しかし民法は婚姻届け,すなわち戸籍への記載を婚姻成立の要件としている。つまり憲法違反をものともせず、戸籍による国民の管理を優先しているのだ。(以上の戸籍制度に関する記載は、佐藤文明著「戸籍って何だ」によった)

さて、ここは大負けに負けて、戸籍による国民管理の不当性の話は措くこととしよう。

すなわち法務省が国民管理のために戸籍を利用するのはいいとしても、そのどこかに制度の矛盾・綻びが生じることもあろう。無戸籍者の大量出現はその典型である。
そうであれば、この仕組みを利用・維持していこうとする法務省は、そうした欠陥に真摯に対処していかなければならない。

しかし法務省は、数十年間にわたりこれをやろうとしなかった。そして「無戸籍者の発生は、国民が出生届の提出義務を果たさなかったことに起因する」などとして、自身の責任を回避しようとしている。嫡出子推定の規定により、多くの国民が出生届を出せない苦境にあることを熟知しているにもかかわらずである。

おそらく彼らは、問題への対処が面倒臭いからなのであろう。また深刻な人権侵害の発生を放置していても、自身が責任を追及されることはないと踏んでいるからなのであろう。
このような「国民の敵」ともいうべき役所・役人の存在は、到底許されないのである。
以 上