福島原発の地下貯水池で相次いで水漏れ事故が発生した。もはや東電の汚染水貯蔵計画は、ほぼ破綻したというべき状況となった。地上の貯蔵タンクはほぼ満杯で、その増設用の土地も限られているのだ。

東電は当初から甘い見通しに終始し、今に至るもから対応は極めて鈍い。汚染水が地下水を経由して海に流失する恐れが極めて強いにもかかわらずである。
規制委員会もまるで危機感が薄い。ただ傍観しているだけである。

こうした中にあっても、原子炉冷却用の高度汚染水が日々400トン(ほぼ小学校の25mプール分)が発生している。地下水の量が大幅に増える梅雨期も迫っている。東電等は、この事態をどうするつもりなのか。

どうやら東電も国も、汚染水を海に流すつもりのようだ。事実こうした主張は以前から小声でなされていた。「汚染水を徹底的に浄化する。そして国が定めた安全基準を達成させた上で、これを海に流す」というものだ。

貯蔵計画の破綻を前に、いよいよ海への放出計画が表舞台に出てきたようだ。その露払い役なのであろう、本日10日の読売の社説の末尾にはこう書かれている。
「浄化後、安全基準に沿って海に放出することの検討も求められよう。国民の理解を得るために、政府が果たす役割は大きい」。

狂気の沙汰というより他ない。第一に、いかに安全基準をクリヤーしたとしても、すべて汚染を除去するわけではないしそれができるはずもない。ましてや第二に、どうせ原子力ムラが作るであろう国の安全基準など全く信用できない。

第三に、仮に国民を納得させることができたとしても、世界の人々が納得するとは到底思えない。海は世界に通じているのである。
勝手に決めた怪しげな安全基準なるものをクリヤーしたとして、よその国が膨大な原発汚染水を意図的に海に流す。国や東電は、そんなことが許されると思っているのか。

これを例えていえば、北朝鮮が独自の基準に合格したとして核廃棄物を海に捨てようなものである。
大気汚染の中国からは盛んに黄砂やPM2.5等が飛来する。しかし中国はこれを意図的に流しているのではない。その分中国の方がずっと救われている。

平和憲法を有するわが国は、清潔さ、治安の良さ、もてなしの心、礼儀正しさ等の面で世界から尊敬されているはずだ。それはわが国の大なる誇りでもある。
その日本が、放射能汚染水を大量に流して世界の海を汚す。これにより世界の評判も国の誇りも、決定的なダメージを受けてしまうのである。

仮に汚染水を流すことを考えるとしても、その前にはやることが山ほどあろう。

まずは国を挙げて、流さないで済む方策を考えることである。
東電等は各種の増設用地がないなどというが、隣接の土地等を買収するなり造成するなり手当てすればよい。そしてゼネコンを動員して堅固なタンクや地下貯水池を突貫工事で築造するのだ。

素人考えであるが、数十万トンのタンカーを接岸させてそこに汚染水を貯めていくのはどんなものだろうか。
さらに洩れ出した汚染水が海に流失しないように、強力な土木工事も必要となろう。

その一方で、汚染水の危険物質を徹底的に除去するべく、全世界の技術の粋を集めて浄化装置を研究・作成し、直ちに除去作業を始める。

万が一、これらすべてを実施してさえも間に合わないことが予想されるのであれば、世界各国に事前に詳細な状況報告を行った上で、「海に流すこと」の了解を得るべく真摯にお願いすることだ。それにより「成る程そこまでがんばり、汚染をそこまで減らしているのであれば了解しよう」と言わせるのである。

しかし国や東電はこうした努力を一切しないまま、安易に「駄目なら海に流せばいいじゃないか」と考えているとしか思えない。

これでは世界をリードすべき地球環境問題等に関して、わが国は一切の発言権を失ってしまう。それ以外にも図り計り知れない有形無形のマイナスが生じよう。
こうした亡国的な国や東電の発想は、絶対に許してはならないのである。