足利事件再審裁判の使命

(2009年10月27日)

足利事件の再審裁判が10月21日から始まった。菅家氏が冤罪(無罪)であったことを法的に確定させるための裁判である。しかし宇都宮地裁はそれのみならず、当時のDNA鑑定等につき証拠調べを行うこととした。形式的な審理だけではなく、誤判原因の解明に踏み込もうとする異例の対応といえる。

なぜ裁判所は、自身すらも被告席に立たされかねないこうした審理に踏み込もうとするのか。それは世の中が足利事件に極めて大きな関心を持ったことに起因する。つまり従来までの「臭いものに蓋」ができなくなってしまったからである。
また最近スタートした裁判員制度の存在も大きい。こうした中、「菅家氏自身も納得するはずのない無内容な幕引きでは、世の批判に太刀打ちできない」と裁判所が考えたからに相違なかろう。

事実、この1~2年前に明らかになった「富山冤罪事件」(別の件で逮捕された犯人がたまたま「あの事件も自分がやった」と話したことから、この件で既に懲役刑で服役していた別の男性の冤罪が判明したという富山県の少女暴行事件)における再審裁判は、全く違っていた。
冤罪被害者が、取調べをした刑事の証人尋問等を必死に求めたのだが、裁判所はこれを却下。何の調査しようとしないままの「臭いものに蓋」路線で、「無罪」が宣告されてしまっているのだ。
 
ところで冤罪には二種類ある。ひとつは捜査当局が真摯に真実の追究を行ったにもかかわらず、(特殊要因等によって)結果として冤罪が発生してしまった場合。もう一つは、捜査当局が無罪であることを承知の上、ある人を意図的に犯人に仕立て上げることにより冤罪を発生させる場合である。
そしてわが国において大量に発生している冤罪事件のほとんどすべてが、後者によるものである。むろん足利事件も同様だ。つまり警察は見込捜査で菅家氏を逮捕したものの、しばらくすると同氏が真犯人ではないことは分かっていたのである。

そう推測する理由・根拠は簡単だ。確かに菅家氏は警察の脅しその他によって「自白」した。しかしその後の同氏による殺害の経緯その他の説明はしどろもどろ。やっていないことなど説明できないからだ。この状況を見れば真犯人ではないことは一目で分かろう。
おまけに捜査員の誘導によりやっと説明を終えた内容は矛盾だらけ。幼児を自転車の後ろに乗せて土手を走ったというが、それは体力的に無理。さらにその時間に走れば多くの人の目に付くはずなのだが、目撃者は一人としていない。他にも矛盾はいくつもある。となれば警察が言っているようなDNA鑑定など当てになるはずがない。

繰り返すがわが国の警察は、でっち上げにより無実の人を犯人に仕立て上げることを平気でやる組織である(ちなみに今では「高知白バイ事件」というでっち上げ事件が話題を呼んでいる)。そしてそれはどこの警察署も同じだ。こんなデタラメをやった栃木県警(さらには当時の担当者)が、大処分を受けていないことからもそれが明らかとなる。

ではなぜ警察組織は、このような恐ろしいことをやるのか。それはまず、検察も同じ穴のムジナであり、こうしたでっち上げ路線を継承してくれるからだ。
さらにこれらをチェックすべき裁判所も、検察庁の言い分を無条件にすべて受入れる。起訴された人を皆有罪にしてしまうのだ。最高裁の統計によると、検察が起訴した人の有罪率はなんと99.9%。つまり裁判の場でいくら無実を主張しても、裁判官は一切耳を貸そうとしない。無罪判決を出して仲間である検察官の面子をなくすわけにはいかない。これが司法の構造なのである。

したがって圧倒的な世の関心を集めたこの足利事件の再審の場こそ、こうした腐りきった警察・検察・裁判所の構造をただすまたとない絶好のチャンスである。今まで多くの「再審無罪判決」があったにもかかわらず、冤罪の発生原因追及といった機会はなかった。かなり世の反響のあった先の「富山冤罪事件」でさえ、それはできなかったのだ。

とはいえ、宇都宮地裁はとりあえず踏み込んだ対応をとってはいるが、本音では逃げ腰に決まっている。だから「いくつか掲げるであろうミスを反省材料として、それを今後に生かす」程度でお茶を濁そうとするであろう。
また役所べったりともいうべき大マスコミも、先の恐るべき構図等には一切目を向けようとしない。したがって冤罪は何かの不幸なミスにより発生しまったという体裁をとり、その方向へ世論を誘導しようとするだろう。

その一環からなのか、読売新聞は、こうした宇都宮地裁の対応に頭を抱えたと思われる元検察官の、次のような意見をも掲載している。
「この事件だけを特別扱いする理由が分からない」。「検証や誤判による被害者の救済は、国賠訴訟などの別の手続きで行うべきだ。再審の本来の目的や機能の限界を超えるような審理を行えば、刑事司法の構造自体を損なうことにもつながる」。
 何を言っているのか。デタラメ司法・捜査等から明らかなように、刑事司法の構造自体などもうとっくに崩壊しているではないか。

我々はそうした動きに惑わされてはならない。あくまで「警察・検察が犯人をでっち上げ、裁判所はそのすべてを容認する」という、彼らの構造的なデタラメをどこまで追及できるか、という視線でこの再審裁判を注視する必要がある。それが既に崩壊した司法を立て直す唯一の方法であると考えるからである。

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