背景に誤解と矛盾のてんこ盛り 最高裁の節税目的養子の「有効」判決

2013219192491最高裁は、相続税の節税目的でなされた養子縁組について、「節税が主な目的であっても、縁組が無効になるとは言えない」との初の判断を示した。これは二審の「親子関係をつくる意思はなく、節税策に過ぎないと」とする無効判断を覆したものだ。

この件について新聞等は「富裕層への優遇」といった発想をにじませつつ、あれこれ解説しているが、その多くが的外れとしかいいようがない。そこでこの問題の本質を追究してみたい。

養子問題を考えるには、民法分野と税法分野とをしっかり区分する必要がある。

民法分野は少しも難しくない。当事者に養子縁組の意思があったかどうかが最大のポイント。意思があれば有効、なければ無効というだけの話である。

したがって節税だけが目的であっても、この条件を満たしていれば無効とされる余地はない。一方その目的が何であれ、親に意思能力が失われている場合や、子が全く知らない間に手続きがなされている場合等では、無効となる。

縁組を否定した先の二審判決は、この要件を満たしていないと判断したのに対し、最高裁はこれを充足しているから有効と判示しただけである。

これにつき新聞は、「最高裁が相続税対策の現状を追認した」などと批判がましくいうが、それは結果論に過ぎない。

やっかいなのは税法分野である。

まず相続税の基本的仕組みをご理解いただきたい。最も重要なのは、相続税が累進課税を採用している点である。だから大資産家の相続では適用税率が高く、巨額の税が課される。その一方、遺産が多くない庶民への税率や税額はさほどの数値にはならない。

また相続税は、亡くなった人がいくら遺産を残したかではなく、各相続人がいくら相続財産を取得したかで税率・税額を決める。だから法定相続人が一人であれば遺産を独り占めでき、いわば資産家型の相続のようになる。ところが相続人が多数いれば一人当たりの配分額ずっと少なくなり、庶民型の相続となる。

たとえば遺産が5億円であっても、相続人が一人であれは独り占めの5億円に対する高い税率。これが5人であれば一人当たり1億円となり、各人には1億円としての低めの税率が適用される。よって相続税額の総額はガラッと変わるってくるわけだ(基礎控除額は無視)

それ故、法定相続人が多いほど相続税の総額が減少する。ここに養子縁組で人数を増やそうという要請が出てくる(なお新聞等では、基礎控除額を増やすために養子縁組をする、などと書かれているが、主目的はあくまで累進性の緩和にある。また節税効果は大資産家ほど大きい)。

以上が相続税法の規定である。そして、税法が独自の規定を定めていない限り、税法は民法の規定を前提として運用される。したがって民法上有効な養子縁組であれば、節税目的であれ何であれ、国税はその縁組に口出しできない。

ところが新聞によると、国税庁は「課税逃れが明白な縁組では、養子の効力を認めない」という方針を示しており、今後もこれを維持するという。具体的には、「縁組の経緯や生活実態などを踏まえ、税負担を不当に減らしている場合」を挙げている。

これは「課税逃れだけを目的とした養子縁組は、民法上有効であっても税法上認めない」という論旨である。しかし税法にはそのような規定は存在しない。したがってそんな税務行政は、租税法律主義の観点から本来許されない。

とはいえ(税法の規定がなくとも)「租税回避行為」は許されないという考え方はある。租税回避行為とは、課税を逃れるために通常ありえない不自然・不合理な行為等を行うことをいう。つまり税法が想定していない抜け穴を突いたような課税逃れは認めないというわけなのだ。

おそらく国税庁はこのイメージで養子縁組を規制しようと考えているのであろう。しかし「節税目的の養子縁組」は、到底祖税回避行為には該当しない。ズバリ、国税庁の養子縁組否認は明らかに無理筋である。仮に当局がこれを規制したいのであれば、そうした立法措置(通達でも可)を講じればいいのである。

国税庁もそんなことは分かっていよう。そこで彼らの本音を推測するとこうなる。「無理筋であっても、国税当局がNOといえば世の大半がこれに従う。とりわけ“無難”をモットーとする税理士はこの傾向が強い。だからやった者勝ち」。

もう一点。そもそも「課税逃れを目的とした縁組み」か否かの明白な判断基準はは存在しない。だからこれは当局の一方的な判断・裁量により行うこととなる。

実は公務員は、この手の裁量(事実上の公権力の行使)が大好きである。だから物事を曖昧にしつつ、判断・裁量に持ち込みたがるのだ。

逆にこれを行使される民間側(納税者)は、「お上」の差配に身を委ねる立場となる。筆者はこのような卑屈な立場が好きではない。したがって曖昧な部分を極力排除し、正当と思われるものは堂々と主張していきたいと考える。

やや話が脱線したようだ。最後に、養子縁組により相続税の節税を考える人はどうすべきかについてみておきたい。

まず何といっても、民法上有効な養子縁組を行うことである。ポイントは、当事者の意思や意思能力の確認となろう。

本来これが全てなのであるが、国税当局が妙な脅しを掛けてきているので、念のためにその対策を講じておきたい。

具体的には、少しでもいいから節税以外の養子縁組の目的・口実を考えておくことである。たとえば、「跡継ぎとしての自覚を持たせるため」、「今後の介護の報酬代わり」、「○○をしてくれたお礼」等何でもいい。こうした目的・口実は縁組した時期の状況であり、その後に生じる事情の変化は何の問題もない。

いずれにしても、養子縁組の節税効果はかなり大きい。その威力は相続財産が大きいほど絶大となる(だからこそ当局もちょっかいを仕掛けてくるわけだ)。

したがって相続人らが円満な関係であるならば、当局の脅しなどに屈することなく(上記の配慮を行った上で)、遠慮なく養子縁組による節税効果を狙うべきと考える。

以 上