農水省はこの27日、放射線の来年からの厳しい新規制値を超える福島県産の米につき、全量を買い上げる制度を創設すると発表した。買い上げは、同省所管の業界団体に担当させる。
 実は国は、この新規制値の適用を半年間猶予することになっている。しかし農水省は、消費者の不安解消を優先すべきとして、直ちに着手するという。

 いかにも善政を施しているという印象を与えるが、これには「自分さえよければ」という役人のエゴともいうべき思惑がミエミエとなっている。

 まず買い上げた米をどうするかといえば、すべて廃棄するという。まだ流通することが許されているものを含め、またどこまで当てになるか分からない国の規制値(キロ当たり100ベクレル)を少し超えたというだけのものをも、すべて捨ててしまうというのだ。農家が丹誠込めて作った米であるにもかかわらずである。

 むろん規制値をわずかに超えたようなものまで廃棄するなどもったいない。家畜の飼料にするなり何なり、使い道はあるはずだ。
 もっといえば、若い人に比べ中高年以上の人は放射線から受ける影響はずっと少ないという。したがって低い線量のものであれば、例えば老人ホーム(さらには高齢のホームレス・生活保護者)であれば食料としての活路は期待できよう。いや63歳の私だって食べてみようかと思う。

 日本人はあまりに潔癖症である。こうした神経質な国民を納得させるための規制値である以上は、やたら厳しい水準であることが予想される。であれば現実的には安全の枠はもっとずっと広いことが考えられよう。

 したがって、飼料や途上国への輸出、さらには中高年向けの食用とすること等について、「どの程度ならどのレベルのリスクあるのか」、これをしっかり調査する必要がある。そして農産物の有意義な使用を図ることをも使命とする農水省こそ、その調査の重要な一角をになうべき役所なのではあるまいか。

 しかし農水省は、そのような面倒な事をいやがった。まして農産物の本来の安全性を、消費者その他に説明を要するような立場からも逃げてしまった。
そして面倒な仕事を背負い込む基になりそうな米を、すべて廃棄してしまうこととしたのである。

 さて、買い上げの資金はどこから持ってくるのであろうか。実は農水省は、買い上げ団体が買い上げ費用につき一括して東電に賠償請求を行うという。だから農水省所管の財布は痛まないというわけである。

 しかしこうした請求は、最終的にすべて税金で尻ぬぐいすることとなる。「何でも東電」は、「何でも税金」なのである。

 いや本来このような杜撰な(少なくとも国が流通を認めている米の分の)請求は拒否されてしかるべきであろう。本来は廃棄する必要のないものまでも、勝手に廃棄したからである。
 しかし農水省も国という体裁にある。東電と国が争ったら、裁判所は国に勝たせ決まっている。農水省はこう考えての行動のはずだ。

 もうひとつ。買い上げは農水省所管の団体にやらせるという点がミソである。つまり「こんなうまい仕事を作ってやったんだから、天下りを○人引き受けろ」というわけである。

 とはいえ農水省だけが特に悪質というわけではない。そもそも役所・役人は「国民の存在」など眼中にない。彼らは自分のためにしか動こうとしないのだ。
そしてたまたま今回、農水省の行動にこの点が透けて見えただけの話なのである。